2012年4月9日月曜日

メルクマニュアル家庭版, 284 章 脳性麻痺


脳性麻痺(のうせいまひ)とは、出生前や出生時、あるいは出生直後に脳に受けた外傷がもとで筋肉の制御ができなくなり、けいれんや麻痺、そのほかの神経障害が起こることです。

脳性麻痺は乳児1000人につき2〜4人の割合で起こりますが、早産児にはその10倍の確率で起こります。出生時体重が非常に少なかった乳児には特に多くみられます。

脳性麻痺は病気ではありません。筋肉の動きをつかさどる脳の部分(運動野)が受けた損傷が原因で起こる症状を総称してこのように呼びます。脳性麻痺の子供は、脳のほかの部分にも損傷がみられる場合があります。脳性麻痺の原因となる脳の損傷は、胎児期、出生時、出生後、乳児期の初期などに起こります。いったん受けた脳の損傷は、子供の症状が成長や成熟により変化することはあっても、それ以上悪化することはありません。子供が5歳を過ぎてから受けた脳の損傷は脳性麻痺とはみなしません。

原因


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脳性麻痺はさまざまな種類の外傷によって引き起こされますが、たいていの場合、原因は特定できません。全体の10〜15%は出生時外傷と、出生前、出生時、出生直後の脳への酸素供給不足が原因です。風疹、トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス感染症などの胎内感染も、脳性麻痺の原因となります。早産児は脳性麻痺を特に起こしやすいのですが、その理由は、脳血管の発達が未熟な上に出血しやすいからだと思われます。血中ビリルビン値が高いことも、核黄疸(かくおうだん)と呼ばれる脳の損傷の原因になります。生後1年間は脳を覆う組織の炎症(髄膜炎)、敗血症、外傷、重度の脱水症などによって脳が傷つき、脳性麻痺が起こることがあります。

症状

脳性麻痺の症状は、わずかにぎこちなさを感じる程度の軽いものから、けいれんによって子供の手や脚がねじれてギプス、松葉づえ、車いすが必要になるほど重いものまで、かなり幅があります。

脳性麻痺には主に、痙性型、舞踏病アテトーシス型、運動失調型、混合型の4タイプがあります。すべての脳性麻痺で子供は話すことが不自由になり、話していることを理解しにくくなります。発話にかかわる筋肉の制御が難しくなっているためです。脳の非運動野も影響を受けている場合があるため、脳性麻痺の子供の多くに精神遅滞、行動障害、視力障害、聴力障害、てんかんなどの障害がみられます。


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痙性型は脳性麻痺の約70%を占めます。このタイプでは筋肉が硬くなって衰弱します。この硬直は、両腕と両脚に及ぶ場合(四肢麻痺)、主に脚に及ぶ場合(対麻痺)、片側の腕あるいは脚だけに及ぶ場合(片麻痺)、があります。硬直が及んだ腕や脚は正常に発達せず、硬くて筋力がありません。四肢麻痺のある子供が最も重症です。この障害をもつ子供の多くに精神遅滞(ときにはかなり重度の)があり、けいれんと嚥下(えんげ)障害を伴います。嚥下障害があると、口や胃からの分泌物で息が詰まりやすくなります(誤嚥)。誤嚥は肺を傷つけて呼吸障害を起こします。誤嚥が繰り返し起こると肺に永久的な損傷を与えます。対麻痺のある子供は通常、精神発達は正常で、けいれんがみられることもめったにありません� �片麻痺の子供の約4分の1は知能が平均より低めで、3分の1にけいれんがみられます。

舞踏病アテトーシス型は、脳性麻痺の約20%を占めます。このタイプでは筋肉が不随意に動き、正常に制御できません。腕と脚と胴体がよじれるような動き、唐突でぎこちない動きになります。強い感情が起こるとこの動きはひどくなり、睡眠中には消えます。これらの子供たちの精神発達は正常で、けいれんはめったにみられません。

運動失調型は脳性麻痺の約10%を占めますが、この型では動きの統制がとれず、動き自体もおぼつきません。筋肉衰弱とふるえもみられます。これらの子供たちは速い動きや微妙な動きがうまくできず、歩く際にふらついて脚が広く開きます。


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混合型では以上のタイプの2つ、たいていは痙性型と舞踏病アテトーシス型の両方がみられます。脳性麻痺の子供ではこの混合型が多くみられます。

診断

脳性麻痺の診断は乳児期の初期には容易ではありません。乳児が成長するにしたがって発達の遅れ、衰弱、けいれん、動きが統合されていないことなどが目立つようになります。脳性麻痺は検査では特定できませんが、脳の損傷の性質を明らかにするためとそのほかの病気を探すため、血液検査、筋肉の電位測定(筋電図)、筋肉の生検、脳のCT検査、MRI検査などを行うことがあります。子供の症状が典型的な脳性麻痺のパターンとは異なる進展をしているように思われる場合は、さらに検査を行います。脳性麻痺の特定の型は、子供が月齢18カ月未満の場合には判別できないことがよくあります。

経過の見通しと治療

経過の見通し(予後)は脳性麻痺の型と程度によります。脳性麻痺の子供の90%以上が成人します。最も重症の脳性麻痺で自分ではまったく何もできない場合には、平均寿命が短い傾向があります。


脳性麻痺の治療は不可能で、障害は生涯続きます。しかし子供の可動性と自立を向上させるためにできることは多数あります。理学療法と作業療法、ギプスを用いることで筋肉のコントロールと歩行が改善されます。特にリハビリテーションを可能な限り早期に開始すると効果が上がります。硬くなった筋肉の動きを制限している腱(けん)を手術で切断したり伸ばす場合もあります。脊髄(せきずい)から延びている神経根の一部を切断することでけいれんが良くなることもあります。言語療法を行うとよりはっきりと話せるようになり、嚥下障害も良くなります。けいれんには抗けいれん薬を投与します。ダントロレンやバクロフェンなどの経口薬を筋緊張に対して用いることがありますが、副作用があるので使用は限られ� ��す。新しい治療法として侵されている神経と筋肉に直接投薬する方法があり、ボツリヌス毒素をけいれんしている筋肉に注射します。

脳性麻痺の子供に重度の知能障害と身体障害がなければ、彼らは正常に成長して普通の学校にも通えます。重い障害がある子供は理学療法や特別の教育を受ける必要があり、日常生活がかなり制限されるので生涯を通じてケアや介助が必要です。しかし重度の障害がある子供でも、教育や訓練の効果があります。


脳性麻痺の子供をもつ親のための情報提供やカウンセリングなどがあり、子供の状態と可能性を理解する手助けをしてくれます。何か問題が起こった際には支援もしてもらえます。愛情に満ちた親のケアと地域医療団体や社会復帰リハビリテーション組織などの支援があれば、脳性麻痺の子供の能力を最大限まで伸ばすことも可能です。



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